約 3,520,677 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/147.html
フェンロイの戯れ言 [次の作品は著者が自らの手で若すぎる死を遂げる直前にその部屋から集められたものである。インク代わりに自分の体液だけで主にベッドのシーツや床の石に直接書かれていて、転写したものの中には著者の真意を編集者が最大限推測して書かれたものもある。] 母は理由はないと言った そういうものなんだと 母は嘘をついている 私には雨が見えるし、雨を感じることができる 私には風を感じることだけができる 誰かが隠している 私が森を抜けて歩けば、鳥は歌うのをやめてしまう。私のことを話しているんだ。きっとそうだ。あまりに恐ろしくて私の前では話せないんだ。 ボート モート コート フロート ゴート ノート ロート 秘密の名前秘密の名前秘密の名前 私が見ていないと彼は私に触れてくる 時々私は人が日常のことを話しているのを耳にする。彼らは家族、天気、昨日のこと、明日のことを話す。なんていい日だったんだ、君はどうだった、いい日でありますようにと彼らは言う。私は話せ話せ話せ話せと言う。それを皆に話をしてどうやって楽しめるのか? 時間は自分だけのものだ。ドラゴンはそれを少しずつ包んで私たちからすべて隠してしまう。時間を節約しよう。時間を節約しよう。私は自分のものを厳重に施錠しておく。誰もその場所を見つけられないように。彼でさえも。 さあ私を抱いて 私をやさしく揺らして 私の涙が枯れてしまいそうだ、いとしい人 縁起悪いことはやめて 縁起悪いことはやめて 息をとめて、さあ大きな息をして 息切れが続く そして私たちは死ぬ 彼はずっと話しているが、その言葉は無用だ。話そう、話そう。さあ話そう。何もしない。いつも話している。言葉は無意味になってしまう。言葉が宙に浮いている。放出された気体のように消えていく。彼が話すのをやめさせよう。私のために話すのをやめさせよう。 いつも女性を相手にする時は気を付ける。彼女たちは私たちが見ないものを見ている。微笑んで。ちらっと見て。私たちには無意味だが、彼女たちには意味がある。彼女たちは私たちに合わせて微笑みを歪める。同様に目をそらす。よく彼女たちを見よう。彼女たちが世界を支配している; そんなことは知らないだろうが。 私は優柔不断だろうか? そうとも言えるし、違うとも言える。 彼女たちは今日私に食事を運んできた。毒が入っているのは知っているが、私はそれを食べた。彼女たちは食事に黒い粉末とエッジルートを加える。それで私が静かで、穏やかになると思っている。よく知っている。時々私はパンをかじって部屋の隅に吐き出す。誰も気づかないが、しばらくするとネズミがそれを食べる。それで奴らは静かで、穏やかになる。私がそのネズミを食べると、毒はもっと薄くなる。そして私は奴らの記憶を手に入れる。 私がそんな愚か者を相手にさせられているのが正しいとは思っていない。そうでなければ鈍い奴だ。そうでなければ学者ぶった奴だ。しかし彼女たちは私に指示をくれる。ここへ行け、それをしろ、これを食べろ、それを殺せといったように。彼女たちは私が名前を知っていることを知らない。結局は私が彼女たちのところへ行って、規則を作るのだ。 あなたは様子を見ているだけ 良き神は現れては消えていく、だけど すべての君主は最後には倒れる 神は人間を起こすことができる 過ちから学んでいれば、最後には過ちをしなくなるだろうか? 自己と完全に調和した均衡を得られるか? これ以上過ちのない場所を探し求めるのか? すべての教えを学んだのか? 過ちが起きると、私たちは死ぬのか? 私たちは神になるのか? 神は私たちを必要としているのか? おそらくすべての犬は慎重に外に行くだろう。おそらく決定は非常に慎重にされるだろう。夢をみると過度に発狂してしまうだろうか? 彼は知っている。彼は知っている。彼は知っている。 物語は子供や夢見る者のためにある。詩は弱者や狂人のためにある。叙事詩は卑しき者を輝かせ、輝かしき者を卑しめる。言葉ではなく、心を読むのだ。 もう行く時間だろう。まだ彼のことを考えているけれど、私が静かになればいなくなるだろう。しーっ。しーっ。 SI 茶2 詩歌
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/255.html
[本書内の記述はどうやら手早く転記されたもののようで、元は口述によるものか、より長大な著作からの引用かと思われる。] 狩りへの出立 何びとにも、狩りが宣言されず、儀式が宣言されず、太古の務めがまっとうされていないなどと証言されることなかれ。 野生の狩りとしても知られる無垢な獲物の儀式は、この世を取り巻く強大なマジカの流れから魔力を引き出すための古代の儀式である。儀式が由来する時代やその考案者は遥か昔に忘れ去られてしまっているが、所定通りに行なうことで狩人に強大な力と名声を与えうるものである。 儀式においては万能なる狩人たちとその大犬、子犬たちが、人間たちの狩りにちなんで伝統的に「兎」とも呼ばれる、哀れなる呪われた無垢なる獲物と対決することになる。狩人は無力な獲物に対する自らの圧倒的な優位性と支配に極上の興奮と栄誉を味わうと同時に、無垢なる獲物の悲劇的ながら誇り高く、しかし最終的には無駄となるあがきを痛感するのである。儀式の最も理想的な完成形とは、獲物を殺す際の最上の悦と、無垢なる獲物の悲しみと絶望に対する狩人の共感との均衡がとれていることである。無垢なる兎の肉体が八つ裂きにされる傍らで、狩人は悲劇的なまでの力の不均衡と、残酷なまでのこの世の不当ぶりを一考するのである。 狩りが始まる際には、子犬たちは無垢なる獲物の聖堂の緑水晶の鏡像の前に集まる。聖堂内では狩人たち、大犬たち、そして狩りの長が儀式を行い、狩人と狩りと無垢なる獲物を受け入れ、神聖化する。その後狩人が聖堂から出てきて、厳しき無慈悲の槍をかかげ、狩りの務めを唱える。狩りの務めは、いぶり出し、追跡、呼びかけ、そして殺しという狩りの四つの段階の決まりと条件を説明している。 一つめの段階であるいぶり出しでは、子犬たちが兎を追い立てるために地面をしらみ潰しにする。 二つめの段階である追跡では、大犬たちが兎を追い立てて走る。 三つめの段階である呼びかけでは、大犬たちが兎を追いつめ、殺しのために狩人を呼び寄せる。 四つ目の段階である殺しでは、狩人が儀式用の厳しき無慈悲の槍を使って獲物を殺し、殺しを目にしてもらうために町の鐘を鳴らして狩りの長を呼び寄せる。その後、狩りの長が殺しの際に厳しき無慈悲の槍を扱った勇敢なる狩人に褒美を与え、また、次の狩りのための兎を指名するよう勇敢なる狩人に求める(勇敢なる狩人自身は次の狩りには参加できない)。 狩人、狩りの長、および犬たちが厳粛に尊重すると誓った狩りの務めは、狩りの習わしと条件を詳しく決めている。狩りの法とも呼ばれるこれらの事項は、例えば各種の犬が何匹まで参加できるか、厳しき無慈悲の槍をどのように扱うべきかなど、狩りのあらゆる側面を事細かに指定している。加えて狩りの法には、例えどれだけ僅かであっても、兎には狩りから逃れられる可能性が残される必要があるとの条項がある。具体的には、獲物には六つの鍵が用意され、これらを全て集めてデイドラの儀式の神殿に行くことで、兎は転移により狩りから逃れ、槍をもつ狩人を煙に巻くことができる。兎が実際に鍵を全て集めて逃げ延びるのは現実的には有り得ないことだが、形式は守らなければならず、鍵に細工を施したり、兎が鍵を見つけたり使ったりする可能性を潰すような行いは、狩りの法に対する恥ずべきかつ許されざる裏切りであると見なされる。 狩りの儀式は狩人に、通常および不死身の者の武器、および全ての系統の魔術を含む、あらゆる攻撃からの加護を与える。狩人たちは、自分たちがもつ槍の威力から自身を守る効果が儀式には無いため、格闘戦や暗闇などの危険な状況で不用意に槍を使わないように警告される。厳しき無慈悲の槍に触れただけで、無垢なる兎も、仲間の狩人も確実に即死してしまうからである。 高位のデイドラの王以外は厳しき無慈悲の槍の強大な魔力に傷つけられうるため、野性の狩りの獲物を使命できる権利は偉大かつ重大な権利である。よって槍そのものは凶悪な武器であり、狩りの儀式の場から持ち出すことは禁じられている。 民族・風習・言語 茶1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/139.html
ジーロットについて シェオゴラスのジーロット 自称「シェオゴラスの狂信者」たちは、我らの君主が単なる驚くべき不思議な力の持ち主ではなく、生ける神だと信じている。そしてその意志によって大地は保たれ、そこにあるすべてが彼の気まぐれによって支えられていると信じているのだ。我らの内奥の風を読む者、アルデン=スルは、シェオゴラス閣下が定命の形で現れたものであり、世界を清めるために再び現れるだろうと彼らは信じている。その主張は明らかに馬鹿げているため、すべての狂信者たちはかなり狂っているものと思われる。 狂信者たちに道理を説くことはできない。彼らを容易に扱ってはいけない。彼らは目につけばほとんど誰でも異端者あるいは異教者と見て、攻撃してくる。彼らは大虐殺を大いに楽しみ、相手が死ぬまで戦う。 読者は疑問に思うかもしれない。どうやって人は狂信者に加わるのかと。研究を重ねた結果、狂信者たちが居住地域へと忍び込み、ローブを置いていくことを私は突き止めた。狂信に心が傾いている者は誰でも、そのローブを身にまとうことにより、安全に狂信者たちに近づくことができる。たとえローブを身につけていても、狂信者の首領はその嘆願者の本当の心を見透かすことができると言われている。そして、偽りの嘆願者は殺されてしまうのだ。 さらになお、狂信者たちにはシェオゴラスへの忠誠を証明するための痛々しい儀式がある。そして最も熱心な嘆願者のみが、彼らと同じ身分になることを許されるのだ。その試練を通過できない者には、死が待ち受けている。 嘆願者がいったん狂信者として認められると、儀式や魔法の秘密を教え込まれる。最も良く知られているのは、彼らの命令に従う肉体の精霊の召喚だ。連中は強力な生物であり、恐るべき敵となる。 SI デイドラの神像関連 神話・宗教 緑2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/57.html
武具の手引き この小冊子は戦地におもむく帝都の将校を対象とした、ウォーハフト将軍の監修による武器についての解説書である。 当然のことながら、兵士の武器はそのスキルに応じたものが望ましい。刀剣のスキルにはダガー、ショートソード、ロングソード、クレイモアが向いている。殴打のスキルなら片手斧、メイス、両手斧、戦槌が適しているだろう。新兵にとって斧や槌は扱いの難しい武器だと思われがちだが、振りかざすリズムや扱い方、力の入れ方などはどちらもまったく変わらない。弓は射手のスキルを持つ兵のみが装備すべきであろう。 こうした武器のほとんどは盾と併用するのが一般的であるが、クレイモア、両手斧、戦槌は両手で扱うため盾は装備できない。重装の騎士やバーサーカーといった部隊の両脇をかためる兵士たちは両手武器を装備するのが望ましい。 いつの時代であっても、武器は多彩な素材から作られてきた。しかも、それらの素材は重さも強度も値段もそれぞれ異なっている。こうした素材を強度と値段の低い順に羅列すると、鉄、鋼鉄、銀、ドワーフ、エルフ、碧水晶、黒檀、デイドラとなる。厳密に言えば、銀製武器は強度の点でやや鋼鉄に劣るという意見の鍛冶屋もいるようだが、たとえそうであっても、亡霊やレイスや特定のデイドラ系モンスターに対して銀がとりわけ有効であることは疑いようがない。 弓は同種の芯材を薄く重ねて作られる。こうすることで張力が増し、弓を引いたときに大きな力が生まれるのである。矢、特に矢じりは使われる素材によってサイズや貫通力が大きく変わってくるため、武器全体の防具貫通力を決めるのは弓の質と矢の質両方だということになる。 すべての神話や歌で魔力の武器についての言及がなされている。こうした道具の魔力は敵を攻撃したときに発揮され、ターゲットに痛みや苦しみを与えるのである。弓にかけられた魔法は射出時に矢に伝達されるが、あらかじめ矢に魔力が宿っているときはどちらの効力もターゲットに対して発揮される。 魔力がこもった武器に宿っているマジカには限りがある。攻撃するたびにマジカが減っていき、やがて底をついてしまう。魂石という神秘のアイテムを使うことで魔力は回復する。この石に封じられた魂が強力であればあるほど、マジカの回復量も増大する。 兵法・戦術 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/226.html
赤の台所読本 シモクリス・クオ 著 私は生まれつき控えめではあるが、我らが皇帝の父、今は亡きペラギウス四世から「タムリエル最高の食通」との言葉を賜ったときは、嬉しかったと言わざるを得ない。彼は親切にも、私を最初で、そして今でも唯一の帝都宮廷内における料理の達人として任命してくださった。他の皇帝たちも、当然料理長や料理人を抱えてはいたが、高度な味覚を持った人物が献立を作ったり、宮廷で出される極上の野菜や果物を選りすぐったりしたのは、ペラギウスの統治中だけである。彼の息子ユリエルも私にその職を続けるよう要請してきたが、病気がちで高齢でもあったため、丁重にお招きをお断りするしかなかったのである。 しかし、この本は自叙伝であることを意図してはいない。私は高級料理人の騎士として数多くの冒険をしてきたが、この本の狙いはもっと具体的である。私は、「今までに食べた最高の料理は何?」と何度も聞かれたことがある。 その問いへの答えは簡単ではない。素晴らしい食事の喜びは、食べ物だけではない── 周囲の環境や同席者や気分によるのである。淡々と作られた丸焼き、または簡単なシチューを本当に愛している人と一緒に食べれば、それは心に残る食事である。素晴らしいフルコースのご馳走を、少々気分が悪いときにつまらない同席者と一緒に食べたなら、すぐに忘れるか嫌悪とともに記憶に残るであろう。 食事はその前に得た経験から記憶に残ることもある。 つい最近、北スカイリムでちょっとした運の悪い出来事があった。私は漁師の集団に同行して、とても貴重で美味しいメリンガーという魚の漁獲方法を観察していた。その魚は遠海でしか見られないので、人里を一週間離れる船旅であった。メリンガーの魚群を見つけたが、漁師がそれをモリで突き始めた瞬間、水中の血がドゥルーの群れを呼び寄せてしまい、船は転覆させられてしまった。私は助かったが、漁師たちとすべての必需品を失ってしまった。悲しいかな、航海術は身に着けていなかったため、ソリチュード王国へ戻るのに3週間、食料もなしで耐えなければならなかった。なんとか生で食べるための小魚を獲ることはできたが、空腹と渇きから意識が混濁していた。陸で最初に食べた食事はノルド風イノシシの丸焼き、ジャズベイワイン、そして、そう、メリンガーの切り身である。これらはどのような状況であろうとも素晴らしかったであろうが、直面していた餓死の脅威から、言葉では言い表せないほど尊く感じた。 さらに、食事はその後に得た経験から記憶に残ることすらある。 ファリネスティの酒場で、美味しい小さな肉の塊が、薬味や汁と一緒に混ぜ合わさっている、コロッピと言う名の簡単な庶民料理に出会い、そのあまりの美味しさから店の女主人に、どこに由来するのかを尋ねた。コロッピに使われるのは、オークの木の一番柔らかい枝だけを餌にしている樹上性のげっ歯類の肉であるとパスコスト女主人が説明してくれ、そして一年の収穫時にヴァレンウッドに居るのは幸運であるとも言った。私は、唯一このみずみずしい小さなネズミたちを捕らえられる、イムガ猿の小さな集落に招待された。コロッピは木の一番細い枝、そしてその枝の最先端に棲むため、イムガたちはコロッピの下から登り、飛び上がってこれらを「摘み」採らなければならなかった。イムガは当然生まれつき器用だが、私は当時若く活発であったので、彼らは私に手伝わせてくれた。彼らのように高くは飛べなかったが、練習し、頭と上半身を硬直させ、足をハサミのように曲げて飛び上がれば、一番低いところにいるコロッピに届くことを発見した。かなり苦労はしたが、自力でコロッピを3匹収穫したと記憶している。 今でもコロッピのことを考えるとよだれが出てくるが、心は私と数十匹のイムガがオークの木の下で飛び回っている姿を想っている。 そしてもちろん、食事の前、後、途中に得た経験から記憶に残る稀な食事もある。そしてそれは、私が今までに食べた最高の料理であり、生涯にわたる、素晴らしき料理への執着を始めさせた料理でもある。 シェイディンハルで暮らしていた子供の頃の私は、食事に対してまったく無関心であった。完全に頭が鈍い訳ではなかったので、栄養の価値は認識していたが、食事の時間が楽しみをもたらしたとは言いがたい。理由の一部は、香辛料はデイドラの発明であり、善良な帝都人は味のない、パサパサしていて、煮てある食べ物を食すべきと信じていた家族の料理人にあった。この考えに宗教的な重要性をあてはめていたのは彼女だろうと思うが、シロディールの伝統的な食事を試食した結果、残念ながらこの考えは我が母国では共通しているらしい。 食べ物自体を楽しむことがなかったが、その他のことに関しては、気難しく冒険心のない子供であった訳ではない。当然、闘技場での戦いは楽しかったし、想像力だけを友に、街の通りをぶらつくことは、私を何よりも喜ばせた。私の心と人生を変えた発見をするのは、そんなように街へ出かけた、真央の月の日が照る金曜であった。 私の家から少々離れたところに、何軒かの廃屋があった。私はそこが、無法者がいっぱいいる、または何百もの霊によってとりつかれているなどと想像しながら、しばしばその周りで遊んだ。中に入る度胸はなかった。実際のところ、過去に私をからかって楽しんだ子供たちを見かけなかったら、中に入ることはなかったであろう。しかし、そのときは逃げ込める場所が必要だったので、一番近い廃屋に飛び込んだ。 家は外と同じように中も荒れていた。そこには誰も住んでいない、それもかなりの期間であることを示す証拠だった。足音を聞いたとき、私には避けようとしていた嫌ないたずらっ子が私についてきたとしか思えなかった。地下室へ逃れ、そこから、崩れた壁を越えて井戸へと出た。まだ上から足音が聞こえたが、いじめっ子と対峙する気はなかった。井戸に掛かっていた錆びた錠を壊し、下へと滑っていった。 井戸は干乾びていたが、空っぽからは程遠いことを発見した。家には地下2階らしき場所があり、そこには大きな部屋が3部屋あり、清潔で家具もあり、明らかに放棄されてはいなかった。誰かがこの家に住んでいると、直感が教えてくれた── 視覚だけではなく、嗅覚も。部屋の1つは大きな赤く塗られた台所であり、炉の上に広げられた石炭の上には一口大に切り分けられた丸焼きがあった。母親が丸焼きを、うれしそうにしている子供たちのために切り分けている、美しくて相応しい浅浮き彫りの飾りを通りすぎ、私はその台所とその中の不思議なことに驚嘆した。 延べたように、食べ物が私に興味を抱かせたことはないが、そのとき私は立ちすくんだ、そして、これを書きながら今でも、あの部屋中を漂っていた芳醇な香りを表現する言葉がない。今までに私の台所では嗅いだことがない匂いであった、そして私は、湯気を立てている塊を口に運ぶ自分を、止めることができなかった。その味は幻想的であり、肉は柔らかく甘い。知らぬ間に、私は炉の上にあったものをすべて食べてしまっていた。そしてその瞬間、食べ物は崇高なものにもなれる、そしてなるべきと真実を悟った。 すべてを胃袋に収め、味覚の大覚醒を遂げた私は、どうしたら良いか悩んだ。私の一部は、料理人に美味な肉のレシピを聞くため、あの赤い台所で彼が戻るのを待ちたがった。もう一部は、自分が他人の家に押し入って、夕飯を食べてしまったことを認識しており、逃げられる間に逃げるほうが賢明であると思っていた。私はそちらに従った。 何度もあの奇妙で素晴らしい場所へ戻ろうと試みたが、シェイディンハルは時間とともに様変わりした。古い家は再生され、新しい家が放棄される。私は、家の中で何を目印にすればよいかを知っている── 井戸、子供のために丸焼きを切る女性の美しい銅版画、赤い台所── しかし、再度あの家を見つけ出すことはできなかった。しばらくたち、齢をとるにつれ、探すのをやめた。今までに食べた最高の料理は、記憶の中に残っているだけのほうがいいのであろう。 その後の私の人生へのひらめきはすべて、あの素晴らしい肉と一緒に作り上げられたのである。あの赤い台所で。 茶2 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/208.html
聖なる目撃者:夜母の真実の歴史 エンリック・ミルネス 著 私は今まで、公爵夫人や高級娼婦、魔女、戦火の中を生き抜く淑女や平和を謳歌する遊女、そのような女たちをたくさん見てきた。しかし、夜母のような女性には会ったことがなかったし、これからもないだろう。 私は作家であり、無名な詩人である。おそらく、私の名前を聞いたことがあるという読者はほんの一握りだろう。最近までの数十年間、私はハンマーフェルの海沿いにあるセンチネルという町に住み、その地の芸術家や画家、織物職人、作家などと交流を持っていた。彼らのうち誰もが、あの暗殺者の顔を知らなかっただろう。彼らの最後の女王、血の花、死の淑女、夜母のことを。 しかし、私自身は彼女のことを知っていた。 数年前、私は高名な学者のペラーヌ・アッシと知り合う機会を得た。彼はちょうど、ダイアグナ団に関する著作の取材のためにハンマーフェルを訪れていたのである。彼の小論『闇の兄弟たち』、およびイニル・ゴーミングによる『炎と闇:死の同胞たち』は、タムリエルの暗殺集団を論じる上で欠かせない資料であるといわれている。幸運にも、ゴーミングもまた同時期にセンチネルを訪れており、私は彼ら二人とともにスラム街のスクゥーマ窟に座り、闇の一党やモラグ団、夜母などについて語り合うという素晴らしい経験をしたのだった。 アッシは、夜母が一人の不死もしくは長命の人物を指す呼び名である可能性も否定はできないとした上で、夜母というものが何人もの女性たち ──時には男性もいたかもしれない── に代々受け継がれる称号のようなものであると考えていた。夜母が一人の人物であると考えることは、一人のセンチネル国王がずっと国を治め続けていると考えるのと同じくらい非論理的であるというのが彼の主張だった。 ゴーミングは、夜母の存在自体を疑っており、少なくとも夜母という人間は実在しないと主張していた。夜母とは闇の一党がシシスの次に崇拝しているメファーラの別名であるというのが彼の考えだった。 「実際のところは、確かめる方法はないのでしょうね」と、私は議論を仲裁しようとして言った。 「いや、方法はあります」と、ゴーミングがにやりと笑い、小声で言った。「あの隅にいる、マントの男に聞けばいいんですよ」 私はそんな男がそこにいることを気付いていなかった。その男はフードを目のあたりまでかぶり、汚く粗雑な石の床に一人で座っていた。私はイニールのほうに向き直り、なぜあの男が夜母について知っているのかとたずねた。 「彼は闇の一党の一員ですよ」と、ペラーヌ・アッシが囁いた。「それは火を見るよりも明らかです。彼に夜母のことを聞こうだなんて夢にも思ってはいけませんよ」 話題はモラグ団についての議論に移っていったが、私の頭の中には一人で座っているあの男の姿が焼きついていた。汚い床の隅に座り、スクゥーマの煙を亡霊のように体にまとって、その目はどこも見ていないようでもあり、すべてが見えているようでもあった。それから数週間後、私はセンチネルの街角で彼を見かけ、後をつけた。 そう、彼の後をつけたのである。読者は当然、「なぜ」や「どうやって」という疑問を抱かれることだろう。 「どうやって」という疑問にお答えするには、私がどれほどよくこの町を知っているかを説明せねばならない。私は泥棒ではないし、音を立てずに歩くこともできないが、その代わり何十年もの間センチネルの大通りや路地を歩きまわり、知り尽くしていたのである。どの橋がきしんで音を立てるのか、どの建物が不規則に長い影を地面に落とすのか、町に住む鳥たちがいつ日暮れの歌を歌いだし、やめてはまた歌いだすのか、全てが頭に入っていたのである。私はそれほど苦労することなく、闇の一党の男に気付かれずに彼を尾行することができた。 「なぜ」という疑問への答えはもっと簡単である。私は生まれついての作家であり、好奇心にあふれていた。奇妙な生き物を見かけたら、観察ぜずにはいられない、それが作家の性というものである。 私はマントの男の後を追い、町の裏側へと入っていった。通る道はどんどん狭くなり、住宅と住宅の間の隙間や破れた柵を抜けた。そして、突然、私は思いがけなく見覚えのある場所に出た。 それは建物に囲まれた小さな墓場で、十数本の腐りかけた木の墓標が立っていた。まわりの建物にはこちら向きの窓がなく、住人ですら誰もこんなところに小さな死者の村があるとは知らないだろう。 誰も知らないはずのその場所に、6人の男と1人の女が立っていた。それに私も。 そのとき、女が私の方を見、手振りで自分たちのほうへ来るように誘った。私は逃げようとしたが── いや、実のところ、逃げようとはしなかった。私のよく知るセンチネルの町に謎の部分があると知りながら、そのままそこを離れることなどできなかったのである。 彼女は私を知っており、優しく笑いかけながら私の名前を呼んだ。夜母は、小さな老婆であった。柔らかい白髪で、しわはあるがまだ若さの残るりんごのような頬を持ち、イリアック湾のように青い瞳は人懐っこく輝いていた。彼女は優しく私の腕を取り、墓場の中心で殺人について話し合っている人々の輪の中に座らせた。 彼女はいつもハンマーフェルにいるわけではなく、全ての暗殺を彼女自身で行うわけでもないらしかったが、彼女の顧客と直接話すことが好きなのだと言った。 「私は、闇の一党に暗殺を依頼しに来たのではないのです」と、私は丁重に申し出た。 「じゃあ、どうしてここへ?」と、夜母は、私の目を見据えたままでたずねた。 私は、彼女について知りたいのだと言った。答えは期待していなかったが、彼女は話してくれたのである。 「あなたたち作家は、私について想像をたくましくしていろいろ書くけれど……」彼女はくすくす笑った。「そういう話を読むのは嫌いじゃないわ。面白かったり、宣伝になったりしますからね。カルロヴァック・タウンウェイの小説の中じゃ、私は長いすに横たわる妖艶な美女なのよ。でも本当のところは、私の経歴なんて面白い物語にはならないわ。ずっと、ずっと昔、私は盗賊だったの。盗賊ギルドができたばかりの頃の話よ。私たち泥棒にとって、家に忍び込んで、見つからないようにこっそりと動き回るのはとても大変で、住人を絞め殺すのが一番いい方法だったの。一番手っ取り早かったから。私は盗賊ギルドの中に、殺人の方法と技術を専門とする部門を作ろうと提案したの」 「その提案があんなに議論を呼ぶとは思わなかったわ」夜母は肩をすくめた。「ギルドの中にはこそ泥の専門家もいたし、スリや錠前破りから、見つかったときの言い逃れまで、盗賊の仕事に必要な全ての分野の専門家がいたのよ。でも、盗賊ギルドは、殺人を推奨することだけは盗賊業のためにならないと思っていたの。やりすぎだ、って言うのよ」 「彼らのほうが正しかったのかもしれないわ」と、老婆は続けた。「でも、殺人にはもっとたくさんの利点があったのよ。つまり、見つかることを心配せずに物を盗めるだけじゃなく、もしその殺した相手に敵がいたら、その敵から報酬までもらえるっていう利点がね。大金持ちには大抵、敵がいるものでしょう。それに気付いて、私は殺しのやり方を変えたわ。相手を絞め殺した後、死体の目の中に石を入れることにしたの、片目に黒い石、もう片方に白い石」 「なんのために?」と、私はたずねた。 「名刺がわりですよ。あなたは作家でしょう── 自分の本の表紙には、名前を載せるでしょう? 私は名前を知らせるわけにはいかなかったけど、私と私の仕事のことを、殺人を依頼したいと思ってる人たちに知ってほしかったの。今はそんな必要もなくなったからもうやってないけれど、その頃はそれが私のサインみたいなものだったの。すぐに噂が広まって、私の商売は大繁盛したわ」 「それがモラグ団の始まりですか?」と、私はたずねた。 「あらまあ、いいえ、違いますよ」夜母はほほえんだ。「モラグ団は、私が生まれるずっと前からあったんです。私はおばあちゃんだけど、そんなに長く生きてはいないのよ。私はただ、最後の君主の暗殺のあと解散しかけていた彼らのうち、何人かを雇っただけ。彼らはもう団を抜けたいと思っていたし、そのころ他の暗殺組織といったら私のところしかなかったので、彼らは私の仲間になったの」 私は、慎重に次の質問を口にした。「全てを話してくださったということは、私を殺すつもりなんですね?」 彼女は悲しげにうなずき、おばあちゃんのようなため息をもらした。「あなたみたいな人の良い、礼儀正しい若い人と知り合ったばかりで、もうさよならしなくちゃいけないのはつらいわ。もし、ひとつかふたつの条件を守れば殺さないでおいてあげると言ったら、どうしますか?」 私は、あの時出された条件をのんだことを生涯恥じ続けるだろう。私はそこで彼女と会ったことを誰にも言わないと約束した。しかし、数年たった今、これを書くことでその約束を破っている。このことで、私は自分の命を危険にさらすことになるだろう。何のために? 私が隠してきた秘密を書き残すためである。 私は夜母と闇の一党の、ここには書けないほど恐ろしく忌まわしい仕事を手伝ったのだ。あの夜から、私が彼らに売り渡してきた人々のことを思い出すたび、私の手は震える。私は詩人としての創作を続けようとしたが、まるでインクが血に変わってしまったような心持ちがして無理だった。私は逃げ出し、名前を変えて、誰も私のことを知らない土地へ移り住んだ。 そして今、私はこれを書いている。直接夜母と会って本人から聞いた、彼女の真の経歴である。これが私の最後の作品になることは間違いない。ここに書いたことは、全てが真実である。 私の無事を祈ってほしい。 編集者注:この文章は当初、匿名で発表されたにもかかわらず、多くの読者は作者の正体を見抜いている。エンリック・ミルネスの詩を読んだことがある者ならば、専門家でなくとも『聖なる目撃者』の文体や言葉のリズムが『アリクール』など彼の作品のそれと酷似していることに気付くだろう。この文章を発表した直後、ミルネスは何者かによって殺害され、犯人は未だに見つかっていない。ミルネスは絞め殺され、眼窩に白と黒の石を押し込まれた無残な姿で発見されたという。 茶2 闇の一党関連 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/171.html
2920 蒔種の月(3巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 蒔種の月15日 カエル・スヴィオ (シロディール) 皇帝レマン三世は、丘の上の見晴らしの良いところから、帝都にそびえる尖塔をじっと見ていた。彼には自分が温かい家、故郷から遠く離れ地にいることが分かっていた。この地の領主、グラヴィアス卿の邸宅は豪華なものだったが、帝都軍を敷地内にまるまる収容できるほどのものではなかった。山腹に沿ってテントが並び、兵士たちはみな卿自慢の温泉に行くのを楽しみにしていた。それもそのはず、そこにはまだ冬の空気が立ち込めていた。 「陛下、ジュイレック王子のご気分がすぐれないようです」 支配者ヴェルシデュ・シャイエに声をかけられ、皇帝は飛び上がった。このアカヴィルが草地の中、一切の音を立てずにどうやって近づいてきたのか不思議だった。 「毒に違いない」と皇帝はつぶやいた。「早急に治癒師を手配しろ。いくら給仕が反対しても、息子にも私のように毒味役をつけるのだ。いいか、我々の周りにはスパイが大勢いることを忘れるな」 「そのように取り計らいます、陛下」とヴェルシデュ・シャイエは答えた。 「現在 政局は非常に不安定でございます。モロウウィンドでの戦いに勝利するためには、戦場に限らず、いかようなる手にも用心するにこしたことはございません。それ故、私が申し上げたいのは、陛下にこの戦いの先陣から退いていただきたいのです。陛下の輝ける先人、レマン一世、ブラゾラス・ドール、レマン二世がそうしたように、陛下も先陣を切りたいというお気持ちは重々承知でございます。しかし、あまりにも無謀ではないかと思われます。私のような者の言葉にどうかお気を悪くなされないでください」 「さようか」と皇帝はこの意見に賛同の意を表した。「しかし、それでは私の代わりに誰が先陣を切るというのだ?」 「お身体が回復されれば、ジュイレック王子が適任かと。もしだめなら、左翼にファーランのストリグとリバーホールドのナギー女王を、右翼にリルモスの将校ウラチスではいかがでしょう」とシャイエは言った。 「左翼にカジート、右翼にアルゴニアンをあてがうだと?」と皇帝は顔をしかめた。「私は獣人を信用しておらん」 皇帝の言葉をアカヴィルはまったく気に留めなかった。皇帝の指す「獣人」とはタムリエルに住む原住民を意味するものであり、彼のようなツァエシとは別であることを十分に承知していたからである。「陛下のお気持ちは分かります。しかし、彼ら獣人がダンマーを嫌っていることをお忘れなく。特にウラチスは領地の奴隷がみなモーンホールドのデューク率いる軍隊に襲われたことを恨んでいます」 それを聞いた皇帝は渋々納得し、ヴェルシデュ・シャイエは下がっていった。皇帝は驚いたが、この時初めてヴェルシデュ・シャイエが信頼に足る人物、味方として優秀な人物であると思えた。 2920年 蒔種の月18日 アルド・エルファウド (モロウウィンド) 「今、帝都軍はどのあたりに?」と、ヴィヴェックは尋ねた。 「2日の行軍でここへ辿り着きます」と、副官は答えた。「我々が今晩夜通し行軍を進めれば、明朝にはプライアイの小高い場所へと辿り着けるでしょう。情報によりますと皇帝は軍の殿を務めることになり、ファーランのストリグが先陣を、リバーホールドのナギーとリルモスのウラチスがそれぞれ左翼と右翼につくそうです」 「ウラチスか……」とヴィヴェックはつぶやいたが、ある考えが浮かんだ。「ちなみにその情報は信用してよいのだな? その情報はどうやって手に入れたのだ?」 「帝都軍に潜んでおりますブレトンのスパイです」と副官は答え、砂色の髪をした若い男に、前に進み出るよう促した。ヴィヴェックの前へ出たその男は頭を下げた。 ヴィヴェックは微笑んで、「名はなんと言う? なぜにブレトンがシロディールと戦う我が軍のために働くのだ?」と尋ねた。 「私はドワイネンのキャシール・オイットリーと言います。この軍のために働いているとしか申し上げられません。諜報活動を行なう者はみな神のために働いているとは言いかねるからです。はからずも私はこの仕事のおかげで食べていけております」と男は答えた。 ヴィヴェックは笑って、「お前の情報が正しければそうであろうな」と言った。 2920年 蒔種の月19日 ボドラム (モロウウィンド) ボドラムの閑静な村からは、曲がりくねった河、プライアイを見下ろすことができる。それは非常にのどかな風景で、ささやかに木が生い茂り、河の東には険しい崖に囲まれた渓谷、西には美しく彩られた花々が咲きほこる牧草地が広がる。モロウウィンドとシロディールの境界でそれぞれの珍しい植物が出会い、見事にまじりあっていた。 「仕事が終われば、あとはたっぷり眠れるぞ!」 兵士たちは毎朝この一声で目覚めた。夜な夜な続く行軍だけでなく、崖に切り立つ木々をなぎ倒したり、溢れかえる河の水をせき止めたりしなければならなかった。彼らの多くは、疲れたと文句を言うこともできなくなるほど疲労困憊であった。 「確認しておきたいのですが……」とヴィヴェックの副官は聞いた。「崖道を進めば敵の上から矢や呪文で攻撃することができる。そのために木々をなぎ倒すのですね? 氾濫する河をせき止めるのは、敵の動きを封じ込め、泥沼の中で立ち往生させるためですよね?」 「半分は当たっておる」とヴィヴェックは満足げに答えた。ちょうどなぎ倒した木を運んでいた近くの兵をつかみ、「待て。その木の枝から真っ直ぐで丈夫な枝を選び抜き、それをナイフで削って槍を作るんだ。100人ぐらいの兵を集めてとりかかれば、我々が必要とする量は2─3時間で作れるだろう」 そう命じられた兵士はいやいやながら従った。他の者も作業に加わり、槍をこしらえた。 「このような質問は失礼かもしれませんが……」と副官は聞いた。「兵士たちにはこれ以上の武器は必要ないのではありませんか? 疲れている上、もうこれ以上の武器を持てやしません」 「あの槍は戦いで使うために作らせているのではない」とヴィヴェックはささやいた。「兵士たちを疲れさせておけば、今夜はぐっすり眠れるからな」ヴィヴェックが兵士たちを指揮する仕事に取り掛かる前によく眠っておけということだ。 ところで、槍というものは先端が鋭いのは当然のことながら、全体の重量とのバランスも大事である。最もバランスのとれた槍の先端部分には、よく見られる円錐形ではなくピラミッド型が望ましい。ヴィヴェックは槍の強度や鋭さ、安定さを測るため兵士に投げさせ、壊れれば新しいものを渡し、測定をくり返した。こうして兵士たちは疲労を抱えながらも槍の良し悪しを身をもってわかるようになり、最高の槍を作りだせるようになっていく。一度投げてみてから、ヴィヴェックは兵士たちにこの槍をどこにどのように配置するかを指示した。 その夜は戦の前日に行なわれる酒盛りもなければ、新米兵士たちが眠れず夜を明かすこともなかった。陽が落ちると同時に見張りを除いて皆が眠りに落ちた。 2920年 蒔種の月20日 ボドラム (モロウウィンド) ミラモールは疲れていた。この6日間、彼は賭博へ売春宿へと夜通し遊び回り、昼は昼で行軍を続けていた。ミラモールは戦いの日を待ち望んでいた。しかし、何よりも待ち望んでいたものは戦いのそのあとの休息だった。彼は皇帝指揮下の後方部隊についており、そこが死から一番遠い場所であるのは良かったが、一方で前方の兵士がこしらえたぬかるみだらけの泥道を歩かなければならず、寝坊してしまえば隊から取り残されてしまう危険性もあった。 野生の花々が咲き乱れる中を進むも、ミラモールたち兵士の足元は足首まで冷たい泥に浸かっていた。進むのには骨が折れた。ストリグ卿に指揮された軍の先陣ははるか遠く、崖のふもとの草地に見えた。 その時だった。 崖の上に、昇り行くデイドラのごとくダンマーの軍隊が現れ、たちまちに砲火と矢の雨が先陣に降りそそいだ。その時、モーンホールドのデュークの旗を掲げた一団が馬に乗って岸辺へ飛び出してきたかと思えば、東の谷間の木立へと続く浅瀬の川べりに沿って消えていった。右翼を固めるウラチスはそれを見るや怒号を上げて追跡した。ナギー女王は崖の軍隊に補足するため、自分の軍を西の土手に進ませた。 皇帝はどうしたらよいか分からなかった。彼が率いる後方部隊は泥道にはまってしまい、前に素早く動けず、戦いに参加できないのだ。しかし彼はモーンホールドの軍に包囲されまいと、東の森林に向け突き進むよう命じた。モーンホールドの軍とは出くわさなかった。しかし、ほとんどの兵士は戦いを放棄し、西へ向かっていた。ミラモールは崖の上を見ていた。 そこで背の高いヴィヴェックと思しき一人のダンマーが合図を送った。その合図を受けた魔闘士たちは西の何かに向かって呪文を発した。何かが起こった。ミラモールはそれをダムのようだと思った。ものすごい激流が左翼のナギー女王を先陣へと押し流し、そのまま先陣と右翼の隊は東へと流されて行った。 打ち負かされた軍が戻って来るのではないかと皇帝はしばらく立ち止まっていたが、すぐさま退避を命じた。ミラモールは激流がおさまるまで急いで身を隠し、それから出来るだけ静かに急いで崖を渡った。 モロウウィンドの軍は野営地まで退いていた。ミラモールが河岸に沿って歩いていると、頭上から彼らが勝利を祝う歌声が聞こえてきた。東の方には帝都軍が見えた。兵たちは河にかけられた槍の網に引っかかり、下からウラチスの右翼軍、その上にストリグの先陣、さらにその上にナギーの左翼軍の兵たちが数珠つなぎに刺さっていた。 ミラモールはその死体のポケットや荷物を漁り、金目のものを探していたが、すぐにその場を離れ河を下りて行った。水が血で汚れていないところに行くまでは、何マイルも先へと進まなければならなかった。 2920年 蒔種の月29日 ヒゲース (ハンマーフェル) 「帝都からあなた宛にお手紙が届いてるわよ」尼僧長はそう言いながらコルダへ羊皮紙を渡した。若い尼僧たちは笑みを浮かべながらも驚いた表情をしていた。コルダの姉、リッジャは頻繁に、少なくとも月に一度は手紙を書いてよこすのだった。 コルダは手紙を受け取り、お気に入りの場所、庭で手紙を読もうと出て行った。そこは砂色で単調な修道院の世界の中で唯一のオアシスであった。手紙自体には大した内容は書かれていなかった。宮廷内のゴシップや最新の流行ファッション(ちなみにワインダーク色のベルベット素材が流行るらしい)、ますますひどくなる皇帝の妄執などについてであった。 「あなたはこんな生活から離れて暮らせて本当にラッキーよ」とリッジャは綴っていた。「皇帝はどうやら最近の戦での大失敗は身内にスパイが潜んでたせいと確信してるみたい。私まで疑われる始末よ。ラプトガ様があなたにあたしと同じようなおかしな生活を送らせませんように」 コルダは砂の音に耳をそばだて、ラプトガにまったく逆の祈りを捧げた。 時は恵雨の月へと続く。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/141.html
黒い矢 第2巻 ゴージック・グィネ 著 私が女公爵の邸宅で従事した最後の晩餐会には、驚いたことに、モリヴァ村長とヒオメイストが他の客と共に招かれていたのである。召使いたちは噂話に夢中である。村長の訪問は以前にもあったが、非常に稀である。しかし、ヒオメイストの出席は考えられなかった。女公爵のこのような行為は、何を意味しているのだろうか? 他の会食に比べればいささか冷たい雰囲気が漂っていたが、晩餐会そのものは滞りなく首尾よく進んでいた。ヒオメイストも女公爵も、口数は共に非常に少ない。皇帝ペラギウス四世に新しく生まれた息子と後継者であるユリエルについて、一同に議論を投げかけようとした村長であったが、その試みは人々の興味を余り惹かず失敗に終わってしまった。すると、ヴィルア卿婦人── 年上ではあったが、妹の女公爵よりも快活である── が、エルデン・ルートでの犯罪とスキャンダルとについて水を向けた。 「ここ数年、情勢が悪くなっているから、エルデン・ルートから離れるよう姉に言ったんです」と言って女公爵は村長と目を合わせた。「つい最近もモリヴァ丘に彼女の邸宅を建てられないか、そのことを話し合ったばかりです。でも、ご存知の通り、あそこはスペースが足りないでしょう? でも運よく、良いところを見つけました。ここから数日ばかり西の方の川岸の広い野原で、本当に理想的なところです」 「それは非常に結構ですね」と、言って村長は微笑むと、ヴィルア卿夫人の方に顔を向けた。「建設はいつから始められますかな?」 「その場所にあなたの村を移した、その日からね」とウォダ女公爵は言葉を返した。 村長は女公爵が冗談を言っているのだと思って彼女を見た。しかし冗談ではなかった。 「川岸に村を移したら、どれほど商益が上がるか考えてみてください」とヴィルア卿夫人は陽気に言った。「それに、ヒオメイストの学生たちも、その素晴らしい学校に通い易くなるでしょう? みんなのためになるんですよ。そうすれば、妹の土地を勝手に踏み荒らす者も少なくなり、心安らかになれるでしょうね」 「今はあなたの土地に入り込むようなものたちはいませんよ」とヒオメイストは顔をしかめた。「このジャングルはあなたのものではありませんし、いずれそうなることもありませんでしょう。村人たちがここを出て行くよう説得されるのは構いませんが、私の学校が移ることはありませんよ」 それから、晩餐会が和やかな調子に戻ることは決してなかった。ヒオメイストと村長が中座を申し出て、一同も客間に酒を求めて出て行き、私が呼ばれることもなかった。その夜は、壁越しに笑い声が漏れてくることはなかった。 翌日、その夜も夕食会が予定されていたが、いつものように私はモリヴァへと足を運ぼうとしていた。しかし、跳ね橋に差し掛かる前に、衛兵が私を連れ戻して言った。「何処に行くんだ、ゴージック? まさか村じゃないだろうな?」 「どうして行けないの?」 彼は遠くに立ち昇る煙を指さした。「今朝早くに火事が起きて、今も燃えてる。どうやら出火元はヒオメイスト学校だ。山賊の仲間の仕業だろうな」 「ステンダールよ!」と私は叫んだ。「学生は大丈夫ですか?」 「分からないが、生き残ってたら奇跡だろうな。未明の出来事で、ほとんどみんな寝入ってただろうからね。師匠の遺体、いや、『師匠だったもの』は見つかったそうだよ。それに、君の友達の女の子、プロリッサの遺体もね」 その日は失意のうちに過ごした。そんなことはありえないとは思ったが、私はあの2人の老貴族、ヴィルア卿夫人とウォダ女公爵が村と学校にいらだちを覚え、それらを灰にしてしまおうと企んだのではないかと直感した。夕食の席では、たいしたニュースでもないかのように、モリヴァでの火災についてほんの少し触れるだけであった。しかし、私は初めて女公爵が笑うのを見たのである。その笑顔を、私は死ぬまで決して忘れないであろう。 翌朝、私は村に行って、生き残った人々の手伝いが何かできないか見に行ってみることに決めた。召使いの間を抜けて豪華なロビーに差し掛かったところで、前の方から何人かの声が聞こえてきた。そこには衛兵とほとんどの召使いが集まっていて、ホールの中央に掛けられている女公爵の肖像画を指さしていた。 肖像画の女公爵のまさに心臓の位置を、1本の黒檀でできた矢が刺し貫いていたのである。 私はすぐに気づいた。それはミッソン・エイキンのものだ。彼が見せてくれた矢筒の中にあった1本、彼いわく、ダゴス・ウルで鍛え上げられた代物である。私はまず最初に安心した。親切に自分を邸宅まで乗せて来てくれたダンマーは、生き残っていたのだ。そして次に、玄関に集まった一同と同じことを考えた。どうやって、衛兵、門、堀、そして、分厚い鉄の正門を突破できたのだろうか? 私のやや後から来た女公爵は、明らかに激怒していたが、育ちの良さからか、その薄い眉を上げてみせただけであった。早急に召使い全員に、始終、邸宅の敷地を警備するよう新たな仕事を命令した。私たちは普段の仕事に加えて、厳重な警備を敷くことになった。 翌朝、この厳戒態勢にも関わらず、新たな黒い矢がまたも女公爵の肖像画を刺し貫いた。 こんなことが一週間も続いた。ロビーには少なくとも一人の人間を置くようにしていたが、どういうわけか、ほんの一瞬警備のものが目を離した隙に、いつも、矢が絵のところで発見されるのであった。 警備する者たちの間で、寝ずの番の間に聞いた物音や不審な出来事を知らせるよう、一連の複雑な合図が考案された。最初は、日中の不審な出来事の報告は城主が、夜間の出来事の報告は衛兵隊長が受け取るように取り決められた。しかし、女公爵は夜眠れないということなので、結局彼女に直接伝えることになった。 邸宅の雰囲気は、陰気から悪夢へと変わっていった。1匹の蛇が這い、堀を渡るのが目に入ったら、ウォダ女公爵は一目散に東の翼面に駆けて行き、丹念に調べ上げた。一陣の突風が芝生に生える木々の1本の葉をざわめかせただけでも、やはり「緊急事態」扱いだった。不運だったのは、偶然1人で邸宅の前を歩いていた旅行者たちである。彼らに何の罪も無いのは明白であるにも関わらず、まるで戦争に遭遇したように暴力が振るわれた。確かにある意味、戦争であった。 そして毎朝、彼女をあざけるかのごとく、正面玄関には矢が突き刺さっていた。 ある早朝の数時間、肖像画を警備する嫌な仕事に私も駆り出された。もう矢が見つからなければ良いのにと思いながら、その肖像画の正反対に置かれた椅子に腰掛けて、私は一瞬でも目を離さないようにした。ところで、読者には1つのものを眺め続けるという経験はあるだろうか? それは奇妙な効果を生むものであった。ほかの全ての感覚が消え失せてしまうのだ。そのため、部屋に駆け込んできた女公爵が私と肖像画の間に立ちはだかった時には、驚いたものであった。 「門からの道のむかいの木の陰で何かが動いているのよ!」と彼女はわめいて、私を脇に追いやり、おたおたと金色の鍵をかけ始めた。 彼女の体は乱心と興奮に震えて、鍵は上手くかからない。手を貸そうと彼女に近づいた時には、すでに女公爵の目は鍵穴を見つめてひざまづいていた。鍵は入ってくれたようである。 まさに、その瞬間、矢が到達した。しかし、決して肖像画まで届かなかった。 それから数年後、私がモロウウィンドで貴族を楽しませている頃、ミッソン・エイキンに再会した。私が邸宅の召使いから、名の知れた吟遊詩人に出世していたことに、彼は感心していた。彼自身はアシュランドに帰り、彼の師匠であるヒオメイストのように引退して、教師兼狩人という簡素な生活を送っていた。 ヴィルア卿夫人は街を移さないことを決め、モリヴァの村は再建されたそうだと、彼に話した。それを聞いて彼は喜んだが、私が本当に知りたかったことを尋ねるきっかけは見つけられなかった。自分の考えは馬鹿げていると思ったからだ。つまり、あの夏の毎朝、門に対して道を挟んだところに生えていたプロリサスの木の陰から、門と芝生と堀と鍵穴を通り抜け、ウォダ公爵の肖像画へと矢を放ち、最後には、彼女自身にも矢を放ったということだ。そんあことは明らかに不可能である。私は聞かないことにした。 その日の内に別れたが、彼はさよならと手を振って、こう言った。「ゴージック、元気にやってそうでなによりだ。あの時は椅子を動かしてくれてありがとう」 茶2 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/32.html
第三の扉 アンアナー・オルム 著 Ⅰ. 私は唄う、斧の女王、エラベスの唄 手斧1本、二振りで、エルムの木も真っ二つ。 楽しむだけで、ヴァレンウッドも更地同然。 テル・アルーンに居たときに、アルヘデイルに教わった。 突きに打撃に立ち回り、全部教えてもらえたの 斧の華麗な躍らせかたを。 彼は色々教えたわ、オークの棘つき斧のこと ウィンターホールド大好きな、6フィートの巨大斧 西のエルフはくりぬき斧で 肉を切り裂き、口笛の音。 片刃の斧で頭2つ 両刃の斧なら10個は並ぶ。 暮らすところは伝説どおり 彼女の心を大斧で、断ち割った人と一緒に暮らす。 Ⅱ. ニエノラス・ウルワース、偉大な男は生まれも育ちもブラックローズ 斧の勝負でエラベスに、勝れる唯一の男だわ 木を切る勝負を1分間、彼女は50、彼53。 その時彼しか見えなくなった。 告白したら、彼ただ笑った。 彼は言う、斧の取っ手が彼の恋人。 それで欲望満たないときは ロリンシエという別の女性。 怒り渦巻く斧の女王 何か楽しい殺しかた 耳でささやくメファーラと、計画授けるシェオゴラス 夢見る気分で数週間、準備するのに大忙し。 競争相手を夜誘拐 死ぬか生きるか決めさせる。 Ⅲ. 沼地の家で目覚めると がらんとした家、三つの扉。 エラベス少女にこう言った。 1つの扉の裏側に、2人が愛するニエノラス。 1つの扉の裏側に、飢えた魔族が棲んでいる。 1つの扉の裏側に、自由に続く道がある。 エラベス少女にこう言った、1つの扉選びなさい 彼女の決断助けるために、選ばなかったら斧が決めると。 ロリンシエ泣いて、エラベス後悔 右の扉を開け放つ。 沼地に続く道があり、暗闇の中を走り去り ロリンシエにも部屋を出ろと。 聞かない振りしたロリンシエ、彼女の意思は固かった。 扉を開けたロリンシエ、ニエノラスがだいたい立っていた。 Ⅳ. エラベス嘘つき、魔族はいない。 第三扉の裏側に、ニエノラスの上半分。 茶2 詩歌
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/248.html
レマナーダ 第1章:サンクレ・トールとレマンの誕生 その時代にはシロディールの帝都は死して、記憶の中に残るのみとなっていた。戦乱とナメクジによるがごとき飢えと不道徳な支配者たちにより西が東から分離し、コロヴィアの別離が四百年にも及び、大地がこの別れにより病んでいたからである。かつては偉大であった西方のアンヴィルとサーカル、ファルクリアスとデロディールの王たちは、傲慢と慣れにより盗賊の王のごとき存在となり、盟約を忘れてしまった。国の中核においても状況は大差なく、神秘師や偽の聖蚕の王子たちが薬で正気を失うか邪なるものの研究に没頭し、玉座に座る者が不在の時代が何世代も続いた。蛇および蛇の警告は無視され、大地は亡霊や冷たい港の深き穴により血を流した。王者の栄光の証であるキム=エル・アダバルの護符でさえ失われ、人々はそれを見つけようとする理由すら見出せなかったといわれている。 このような闇の中でフロル王は、いずれも西方の息子たちや娘たちからなる、十八より一人少ない騎士たちを引き連れ、失われしトウィル以遠の地から出立したのであった。フロル王は啓示の中で来たるべき蛇たちを目の当たりにし、先人たちの描いた境界線を全て癒せればと考えたのである。そんな彼の前にようやく、太古の時代の女王であるエル=エスティアその人に似た精霊が現れた。その左手にはアカトシュの竜火を持ち、その右手には盟約の玉石を持ち、その胸には傷があり、その押し潰された両足に虚無をこぼし続けていた。エル=エスティアおよびキム=エル・アダバルを目にしたフロル王とその騎士たちは嘆き悲しみ、跪いて全てが正されるよう祈った。精霊は彼らに語りかけ、我は万人の癒し手にして竜の母であるが、汝らが幾度も我から逃れたように、我も汝らが我が傷み、すなわち汝らとこの地を殺すそのものを知るまで、汝らから逃れることにする、と口にした。 そして精霊は彼らから逃れ、彼らは悪党と成り果てた自らを嘆きながら、手分けをして丘の間や森の中を探したのであった。彼女を見つけたのはフロル王とその従士の二人だけで、王は精霊に語りかけた。美しいアレッスよ、聖なる雄牛とオーリ=エルとショールの美しき妻よ、私は汝を愛している、そして再びこの地に息吹を吹き込まんと欲す。それも痛みを通じてではなく、盟約の竜の火への回帰をもって、東と西を統一させ、滅びを捨て去ることで。そして王の従士は見た、精霊が王に肌を曝し、近くの岩に「そしてフロルは丘にて愛した」と刻み、契りの場を目の当たりにしながら死んでいくのを。 残りの十五人の騎士たちがフロル王を見つけた時、王は泥の山にもたれかかり、果てていた。彼らはそこで道を別ち、何人かは正気を失い、トウィルの向こうにある故郷へと帰り着いた二人はフロルのことは口にせず、彼のことを恥と感じ続けた。 だが九ヶ月を過ぎると、かの泥の山は小さな山となり、羊飼いや雄牛たちの間でささやき声が聞こえた。丘が成長し始めて間も無い頃に少数の信者たちがその周囲に集まり、それを金の丘、「サンクレ・トール」と名づけた。そして彼の産声を耳にした羊飼いのセド=イェンナが丘を登り、その頂上にて丘から生まれし赤子を見つけ、「人の光」を意味するレマンと名づけたのであった。 そして赤子の額にこそキム=エル・アダバルがあり、ありし日の神に約束されし竜の火が燃えさかっていた。そしてセド=イェンナが白金の塔の階段を上るのを邪魔する者はおらず、彼女が赤子レマンを玉座に置くと、彼は成人のごとく言葉を発し、「我こそシロディールなり」と口にした。 第2章:騎士のレナルド、豚の剣 玉座が空位となった時期にて、蛮行に身を落とした王たちのくだらぬ紛争の中で、キム=エル・アダバルは再び失われた。西と東が結ばれることはなく、他の地はいずれもシロディールを蛇そして蛇のごとき人々の巣と見なしていた。そして以後四百年もの間、レマンの玉座は別たれたままとなり、忠実なる騎士たちの一団の画策のみが国境の崩壊を防いでいた。 この忠実なる騎士たちは当時名を名乗ることはなかったものの、その東方由来の剣と塗られた目で知られ、かつてのレマンの近衛隊の末えいであると噂された。その中の一員であるレナルドと呼ばれる騎士がクーレケインに力を見出し、戴冠までの道を手助けしたという。後になって初めて、レナルドがそうしたのが嵐冠の神ことタロス、当時の栄えある皇帝タイバー・セプティムに近づくためであったことがわかり、またさらに後に、レナルドが豚に師事していたことがわかった。 竜の旗の騎士たちには長きに渡る栄光こそが妻の役割を担っていた。彼らは他の者を知らず、かつて多くの海の向こうにて兄弟であり、今やペイル・パスの剣の降伏と呼ばれた法のもとで兄弟であった。吸血鬼の血を引くこの兄弟である騎士たちはレマン以後も何世代にも渡って生き長らえ、その寵児であったとぐろの王、ヴェルシデュ・シャイエを守り続けた。蛇の隊長のヴェルシューがレナルドとなり、そして黒き投げ矢がサヴィリエン・チョラックに食い込んだ際には北西の守護者となった。 [このあたりでページが破かれていることより、この古代の書物の残りの部分が失われていることがうかがえる。] 歴史・伝記 赤3